「漢字をがんばります」??

初等教育論

子どもの目標 「漢字をがんばります」??

 新年度になると、子どもたちに目標を立てさせることがあるだろう。
 この子どもたちが立てる目標を吟味してみると、いろいろと課題が見えてくることがある。

 よくある目標が、タイトルにあるような「〇〇をがんばります」という目標である。
 子どもたちは実によく、この「がんばる」を使う。(それは大人が使っているから、そのまねをしているに、他ならないが。)

 「計算をがんばる」「掃除をがんばる」「発表をがんばる」・・いくらでも量産できる。

 一度、子どもたちに聞いてみたことがある。
「漢字をがんばるって、漢字をどうすることですか。」
 まさかそんなところで突っ込まれると思っていなかったのか、子どもも戸惑う。

「漢字をがんばる、ということは・・・・・・・・、漢字を・・・・がんばる・・」
 (笑)

  実は子どもたちにも、具体的なイメージがあるわけではない。

 一言で、漢字をがんばるといっても
 漢字練習帳に、大量に書いていくことなのか、
 とめ、はね、はらいを意識して、ていねいに書くことなのか、
 新出漢字を初見で覚えることなのか、
 当該学年以上の漢字を覚えることなのか、
 熟語などの用例をたくさん使えるようになることなのか、
 あるいは、単純にテストで100点を取ることなのか・・・

 場合によっては、それら全部を指すのかもしれない。

 子どもたちは、そうした具体的なことをイメージせずに「がんばる」という言葉で自分の目標をまとめようとする。当然だが、この後の具体的な活動はない。

 これは子どもが悪いわけではない。
 漢字練習に取り組むことの具体的なイメージを持たせていない大人(特に教師)に責任がある。

 子どもたちは自分たちが何をすれば、漢字を覚えるようになるのか、使いこなせるようになるのか、はっきりとした自覚がない。
 これも低学年であれば、ある程度は仕方がないだろう。
 しかし、高学年でやみくもに、漢字練習帳に大量に書くだけの練習では、自分の能力をメタ認知するのは無理である。

 まずは子どもたちに、このような安易な目標を立てさせないことである。
 年度の始めに、子どもたちの自己紹介カードなどを掲示することがある。そこに、一年間の目標を書く欄があり、そこに上記のような文言があふれている。

 このような目標を立てたところで、子どもたちの行動は何一つ変わらない。きっと子どもたちも、覚えてすらいないだろう。
 このことにより、目標とは実行が伴わなくても、(覚えてすらいなくても)構わないものなのだということを学習させることになる。負の学習である。

 年度の当初に、自己紹介カードを書かせるためだけに、安易な目標を書かせた結果、おかしな学習をさせたことに気づくべきであろ。
 繰り返すが、「やらないよりマシな活動」ではない。「やってはいけない活動」なのである。

 教師が学級経営案に「授業をがんばる」と書いていたら、「それって意味がないよな」と思うのと同じである。

 ちなみに、こうした年間の目標を「黄金の三日間」の一つとして、授業も十分に行っていないうちに書かせる教師がいるようだ。
 残念ながら、それは間違っている。
 子どもたちは、新しい担任がどのような授業をするのか知らない、知るわけもない。
 にもかかわらず、昨年の自分の「思い出」の中から都合のいい言葉を引っぱり出して、書いているに過ぎない。

 例えば、仮に「漢字をがんばる」を改め「漢字練習ノートにきれいに書く」と書いたとする。
 しかし、担任がもし練習ノートを使わない指導をするのであれば、その目標は意味がなくなる。

 もし、教師が本当にこうした言葉に意味を持たせたいのであれば、せめて一か月くらいは授業し、自分の今の実力と担任の授業のやり方を理解したうえで、ていねいかつ具体的に言葉の指導をするべきであろう。
 しかも一か月程度、経過を見て目標の修正も検討するべきである。

 それが面倒なら、こんな目標は書かせない方がいい。
 たかが掲示物一枚の言葉尻をとらえるな、と思うなかれ。全てが教育という営みなのだ。
 

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